日本の生体移植手術が救世主に!エジプトの苦悩とイスラム圏からの熱望
平成9年の臓器移植法から16年間での課題
平成9年に日本で臓器移植法が施行されてから
16年の月日が経過しました。
平成22年には、「脳死を人の死と考えるか否か」で、
国論を二分した改正臓器移植法で、
脳死下の臓器提供が可能になっています。
しかし、5年間が経過しても、
年間の脳死下の臓器提供は平均40件で、
現在でも200件前後に留まっています。
これは、年間数千件の単位で脳死下の臓器移植が
行われているアメリカとは、比較にならない差があります。
生体間臓器移植に特化した日本に、イスラム圏からの熱望
日本人は、それ程宗教色が無いと思われていますが、それでも、
心臓が動いている状態での臓器移植には、根強い抵抗感があります。
それが、脳死下での臓器移植手術をかなり低い件数に留めている
原因ではないでしょうか?
しかし、その結果、
日本の医療技術は、生体間での臓器移植法に
特化するようになり、医療技術も向上しました。
脳死下以上に、
生きている人間からの臓器移植は高度な技術を必要とし、
日本の技術は最高水準にあるのです。
そこで、日本の生体臓器移植技術に
白羽の矢を立てたのがエジプトでした。
イスラム圏のエジプトが、
どうして日本の生体間臓器移植手術を必要としているのでしょうか?
宗教上の理由で、脳死が認められないエジプト
イスラム教国であるエジプトは、宗教上の理由で、
心臓死以外は死とは認められないという観念が根強い国です。
そこで、生きた人間から臓器を移植する生体移植技術の
先進国である日本に、白羽の矢を立てたという訳です。
そこには、宗教上の理由というタブーと、
臓器移植手術しか助かる望みがない患者との間の
ギャップを埋める事ができる生体移植という選択肢を
模索しているエジプトの苦悩が存在していたのです。
国立成育医療研究センター笠原群生医師がエジプトに渡り医療技術指導
「自分の臓器を分けてでも自分の家族や子供を助けたいという気持ちは同じ、
日本の技術が役に立つのなら、という思いがあった」
国立成育医療研究センター笠原群生(むれお)臓器移植センター長は、
このように語り、
エジプトに平成13年から年に数回渡航して、
生体肝移植手術を行うと共に現地の医師に技術指導を行っています。
これまでに笠原医師が手掛けた手術は約150例、
うち約50例は日本でも評価の高い子供への手術です。
イスラム教国ならではの様々な問題も
肝臓は、他の臓器に比較しても柔らかく、
繊細で扱いが難しい臓器、手術は半日以上かかる事もあります。
しかし、イスラム圏であるエジプトでは、
午後を中心に1日5回の礼拝が欠かせないので、
手術との折り合いが難しい面もあります。
そこで、笠原医師は、現地の文化を尊重する為に、
手術は明け方から始めて、
礼拝との折り合いをつけるなどの工夫もしています。
笠原医師の尽力もあり、エジプト人医師の生体臓器移植の医療技術は
向上してきていますが、まだ課題は山積しています。
まだ、子供の生体肝移植の整備が進んでいないという課題
エジプトでは、まだ臓器移植に関する医療整備が遅れていて、
特に子供の臓器移植は立ち遅れている状態にあります。
中には、手術の準備をしている間に亡くなってしまうケースもあり、
笠原医師も心配しています。
ですが、脳死下の臓器移植が進んでいない代わりに、
生体移植の技術が進んできているというのは
いかにも日本らしいパラドックスです。
世界には、沢山の宗教上のタブーや習慣上の違いがあり、
脳死下の臓器移植のみでは対応できないケースも多いのです。
エジプトに限らず、
イスラム教圏は心臓死しか人間の死と認めない国が多いので、
臓器移植を待ち望んでいる患者や家族にとって、
日本の生体移植手術が救世主にあるのも、
そう遠くない未来かも知れません。